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嬉しい映画的経験ができる、貴重な映画

2008/10/03

●2008年/日本/117分/2008年10月4日(土)から丸の内TOEIほか日本公開
●配給:東映

自分のよき理解者には心からつくしてくれる馬の性質

(c)2008「三本木農業高校、馬術部」製作委員会
(c)2008「三本木農業高校、馬術部」製作委員会
 タカラコスモスという馬がいる。たいへんな名馬と謳われたものらしい。これが視力が衰えて処分されるところを、青森県の三本木農業高校の馬術部の顧問をしている教師のたっての願いで処分をまぬかれた。そしてこの学校の厩舎に引きとられていま高校生の馬術部員たちから世話されている。しかし不安なのか、扱い方が下手なのか、そもそも目が見えない以上当然なのか、なかなか言うことをきかない。それで先生からこの馬の担当を命じられた菊池香苗という一年生の部員は、いいかげん頭にきて、よく「バカ馬」とののしっている。ところが世話しているうちに情が移ってくる。馬という動物は自分のよき理解者だと思える人間に対しては本当に心からつくしてくれる性質があって、タカラコスモスは菊池香苗を信頼するようになったらしい。そして高校生の馬術大会で、彼女を乗せたタカラコスモスは障害物の競争に出て信じられないような跳躍をやってのける。

事実を信じて、心をこめて描くことの強さ

 これは実話だそうである。三本木農業高校も実在する学校だ。この実話であり実在する学校であるという点がなによりも強い。描写で誇張する必要がない。話を誇張して嘘っぽくしてしまうのでなく、事実を信じてそれをあくまでも丁寧に心をこめて描くことができる。佐々部清監督はドラマチックにストーリーを盛りあげることは避けて、愛すべき馬たちと純朴な若者たちと、それぞれの良さをあくまでも好ましく信頼の眼で見つめつづけることで、最後にさりげなくそっと示される出来事が、じつは奇蹟的と言っていいことなのに、なにか、当然のことのように不自然さなしに感じられる。嘘っぽい感動ではなく、美談を美談として素直に好ましく受け止めることができて嬉しいのである。映画的経験としてこれは滅多にないことだ。

こんな立派な農業高校が実在するという、明るい農業の話

 まず、広大な敷地を持っ農業高校の佇まいがいい。その敷地の大部分は農業の実習用地なんだろう。次いで、そこでの馬術部の訓練の様子がいい感じである。農業についてはもう長いこと、明るい話題ひとつ聞いたことがない。こんな立派な農業高校があるということ自体が、じつに久しぶりの明るい話である。少なくともこの学校では生徒たちはいい感じだし、柳葉敏郎の馬術部顧問の先生がなにやら若い頃の笠智衆を思わせるようないい味を出してきたのをはじめ、教職員たちもいい感じだ。同じ形容を何度も繰り返すが、とにかく全編、いい感じであふれているという貴重な映画である。

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