季節が移ろう。そして人の心も移ろってゆく。恋愛映画の巨匠、ホ・ジノ監督の映画を観ると、いつも心が揺れてしまう。
ペ・ヨンジュン主演の前作『四月の雪』より前から準備をしていたという『ハピネス』は、これまで以上に、いろいろなものの間で、女と男が揺れていた。献身的な女と身勝手な男、田舎と都会、出会いと別れ、愛の美しさと醜さ、生と死……。さまざまな積み重ねの中で、揺れっぱなしの女と男。
ペ・ヨンジュン主演の前作『四月の雪』より前から準備をしていたという『ハピネス』は、これまで以上に、いろいろなものの間で、女と男が揺れていた。献身的な女と身勝手な男、田舎と都会、出会いと別れ、愛の美しさと醜さ、生と死……。さまざまな積み重ねの中で、揺れっぱなしの女と男。
身近なところで幸せを見つける難しさを描きたかった

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「『ハピネス』では、意図的にいろんなものを対比させています。たとえば都会では快楽に溺れる部分を強調し、田舎では平穏さを強く出してみました。そういう相反するものがぶつかり合った時に生まれる、いろんな気持ちや状況を見せたいと思っていました。愛というものはとても幸せなものではあるけれども、どちらかが去っていくことになれば、非常に残酷なものに変わる。いつか幸せな記憶として残るとしても、そんな愛の残酷さを描きたかったのです」
ホ・ジノ監督は穏やかにそう語った、悔しいほどにちっとも揺れず。そういえば、女の病気が肺疾患で、男は肝硬変を患っているというのも、アイロニーに満ちている。そして男は健康を取り戻して女のもとを去り、残された女は静かに死を迎える。死がふたりを分つのは、長編デビュー作『八月のクリスマス』(2005年には、山崎まさよし主演で長崎俊一監督がリメイクも)を喚起させるモチーフだが?
「『八月のクリスマス』を撮っていたころは、人の幸せについての映画を作りたいと思っていました。あの作品も本当は『ハピネス』というタイトルに決めていたくらいで。何かが過ぎ去った後に感じる喪失感や、戻れない過去に対する恋しさや懐かしさについての感情は、これまでと変わらないところかもしれませんが。あれから10年くらい経ってみて、私自身の世の中を見る目がもしかしたら冷たくなったのかもしれません(笑)。あの頃とは少し、温度差がありますね。今回、撮影をしながら、“幸せは近くにある”とよく言われるけれども、人はそれを忘れて生きているのではないか? という思いがありました。そして、幸せを逃したあとに、幸せは思い出となり、そこからやっと幸せを感じたりすることもあるんじゃないかって。身近なところで幸せを見つける難しさを描きたいと」
ホ・ジノ監督は穏やかにそう語った、悔しいほどにちっとも揺れず。そういえば、女の病気が肺疾患で、男は肝硬変を患っているというのも、アイロニーに満ちている。そして男は健康を取り戻して女のもとを去り、残された女は静かに死を迎える。死がふたりを分つのは、長編デビュー作『八月のクリスマス』(2005年には、山崎まさよし主演で長崎俊一監督がリメイクも)を喚起させるモチーフだが?
「『八月のクリスマス』を撮っていたころは、人の幸せについての映画を作りたいと思っていました。あの作品も本当は『ハピネス』というタイトルに決めていたくらいで。何かが過ぎ去った後に感じる喪失感や、戻れない過去に対する恋しさや懐かしさについての感情は、これまでと変わらないところかもしれませんが。あれから10年くらい経ってみて、私自身の世の中を見る目がもしかしたら冷たくなったのかもしれません(笑)。あの頃とは少し、温度差がありますね。今回、撮影をしながら、“幸せは近くにある”とよく言われるけれども、人はそれを忘れて生きているのではないか? という思いがありました。そして、幸せを逃したあとに、幸せは思い出となり、そこからやっと幸せを感じたりすることもあるんじゃないかって。身近なところで幸せを見つける難しさを描きたいと」
幸せもどこかにとどまっているのではなく、常に動いている

ホ・ジノ監督自身によるノベライズ本「ハピネス」も発売中。「ハピネス」ホ・ジノ、キム・ヘヨン著、蓮池薫訳/1,470円(税込)/ランダムハウス講談社
恋が終わっても日常は続くように、本作もまたふたりが別れたあとも、物語は続いていく。むしろ、別れてからの時間の方が長かった印象もある(正直、観ているのが辛かったから長く感じたのだろう)。
「何かが消滅したあと、哀しみを経て、やがて懐かしい思い出に変わるのを助けてくれるのは、やはり時間だと思います。時間が過ぎてゆくことで、記憶として定着し、そして美化されていく。時間が経つことで、人の感情も変わっていくものだと思うから」
美化される前に、後悔の念にとらわれてしまう、愚かな人間もいるのだけれど。ホ・ジノ監督の映画は、観る者それぞれの過去や実感に委ねる形で心に触れてくる。身近な幸せを感じ取れないというのは、詰まるところ、自分自身に対する信用や、自信のようなものがあるかないか、ということなのだろうか?
「幸せを求めるのであれば、やはり自分を信じるしかないのかなって気はしますね。でも、なかなか自分を信じるのは難しいですよ。物事って絶対に持続しているものですから。どこかで止まったりしないじゃないですか! 幸せも同じで、どこかに止まっているものではなくて、常に動いているものだと思います。だから、できるならその都度、自分を信じて、動いている幸せを追い求めていくということが大切なのかもしれませんよね」
そして、最後にこう続けた。
「どういうふうに生きたら良いのか? それは私の長い間の悩みでもあります。若い頃は、10年後、20年後にはわかるだろうと思っていたけれど、未だにどうやって生きたらいいのかという問いかけは、相変わらず自分の中に残っていて。自分が強くなるべきか、優しくなるべきかというのも悩みだし。常に自分の心の中も動いている気がしています。そう考えたら、きっとこれから年を重ねて老人になってもずっと、どう生きるべきなのかと問い続けていくような、答えなんてないんじゃないかと思います。でも、自分自身にどう生きるのか? と問いかけることによって、少しずつ賢くなるというのか、知恵がつくのかもとも思っています」
あぁ、さすがの巨匠も揺れている! 誰もが、思い通りに行かない人生を、揺れながらも明日へと進むしかないのだ。これは少し、幸福な事実だ。
「何かが消滅したあと、哀しみを経て、やがて懐かしい思い出に変わるのを助けてくれるのは、やはり時間だと思います。時間が過ぎてゆくことで、記憶として定着し、そして美化されていく。時間が経つことで、人の感情も変わっていくものだと思うから」
美化される前に、後悔の念にとらわれてしまう、愚かな人間もいるのだけれど。ホ・ジノ監督の映画は、観る者それぞれの過去や実感に委ねる形で心に触れてくる。身近な幸せを感じ取れないというのは、詰まるところ、自分自身に対する信用や、自信のようなものがあるかないか、ということなのだろうか?
「幸せを求めるのであれば、やはり自分を信じるしかないのかなって気はしますね。でも、なかなか自分を信じるのは難しいですよ。物事って絶対に持続しているものですから。どこかで止まったりしないじゃないですか! 幸せも同じで、どこかに止まっているものではなくて、常に動いているものだと思います。だから、できるならその都度、自分を信じて、動いている幸せを追い求めていくということが大切なのかもしれませんよね」
そして、最後にこう続けた。
「どういうふうに生きたら良いのか? それは私の長い間の悩みでもあります。若い頃は、10年後、20年後にはわかるだろうと思っていたけれど、未だにどうやって生きたらいいのかという問いかけは、相変わらず自分の中に残っていて。自分が強くなるべきか、優しくなるべきかというのも悩みだし。常に自分の心の中も動いている気がしています。そう考えたら、きっとこれから年を重ねて老人になってもずっと、どう生きるべきなのかと問い続けていくような、答えなんてないんじゃないかと思います。でも、自分自身にどう生きるのか? と問いかけることによって、少しずつ賢くなるというのか、知恵がつくのかもとも思っています」
あぁ、さすがの巨匠も揺れている! 誰もが、思い通りに行かない人生を、揺れながらも明日へと進むしかないのだ。これは少し、幸福な事実だ。
ホ・ジノ
1963年8月8日、韓国・チョンジュ生まれ。延生大学哲学科卒業、韓国映画アカデミー9期。長編監督デビュー作『八月のクリスマス』では、青龍賞作品賞、大鐘賞新人賞など総ナメに。また、カンヌ国際映画祭批評家週間でも、その才能を認められた。本作は、『春の日は過ぎゆく』、『四月の雪』に続く新作で、青龍賞監督賞に輝いた。
『ハピネス』
●原題:幸福/2007年/韓国/124分/2008年9月27日(土)から、シネマート六本木ほかにて順次日本公開
●配給:エイベックス・エンタテインメント、エスピーオー
→韓流シネマフェスティバル2008公式HP http://www.cinemart.co.jp/han-fes2008/
text by Kana Ishimura(variety japan)
1963年8月8日、韓国・チョンジュ生まれ。延生大学哲学科卒業、韓国映画アカデミー9期。長編監督デビュー作『八月のクリスマス』では、青龍賞作品賞、大鐘賞新人賞など総ナメに。また、カンヌ国際映画祭批評家週間でも、その才能を認められた。本作は、『春の日は過ぎゆく』、『四月の雪』に続く新作で、青龍賞監督賞に輝いた。
『ハピネス』
●原題:幸福/2007年/韓国/124分/2008年9月27日(土)から、シネマート六本木ほかにて順次日本公開
●配給:エイベックス・エンタテインメント、エスピーオー
→韓流シネマフェスティバル2008公式HP http://www.cinemart.co.jp/han-fes2008/
text by Kana Ishimura(variety japan)














































