
まさに現代の『蟹工船』? 中国ジーンズ工場の現実
今、この記事を読んでいる人のなかで、ジーンズを一本も持っていない、という人はどれくらいいるだろうか。『女工哀歌(エレジー)』は、中国のジーンズ工場に出稼ぎに来ている10代の少女たちの過酷な労働状況をありのままに追ったドキュメンタリー。一部屋に12人が寝泊まりし、忙しい時には深夜3時まで作業は続く。本来は16歳からしか雇ってはいけないはずだが、そこには偽造IDカードを持つ14歳の少女もいる。そうやって作られたジーンズ1本あたりの人件費はなんと1ドル。しかも裁断、縫製、品質チェックなど約15人の手を経ているため、一人あたりの取り分はたった7.8円にしかならないのだ。
「中国で撮影をするためには、本来なら政府の撮影許可が必要なんです。けれどそれでは本当の労働現場を撮ることができない。そこで3回にわたった撮影は全て観光ビザで入り、機材もこっそり運び込んで、政府にばれないように行いました。それでも何度も警察に撮影を止められたり、撮影済みテープを没収されたりしたんですが。しかも最初に主な被写体としていた少女はおびえてしまったので、別の主人公を探さなければならなかったんです。1年半も撮影を進めてきていたのに! 実は、最終的に取材をさせてくれた工場主のラム氏には、『自由経済の起業家第一世代の映画を作りたい』とお願いして撮影したんです。しかも現在リサーチをしていて、他にも6つの工場と交渉中です、ってね(笑)。その結果、全面的に協力してくれました。24時間、どこへでも出入りしていいと。ですから映っているのは、ありのままの工場の様子。登場する少女たちも映画の本来の意図は知りません。僕のことは工場主の友達だと思ってましたね。だから工場では、映画の本当の意図は誰も知らなかったんですよ」
「中国で撮影をするためには、本来なら政府の撮影許可が必要なんです。けれどそれでは本当の労働現場を撮ることができない。そこで3回にわたった撮影は全て観光ビザで入り、機材もこっそり運び込んで、政府にばれないように行いました。それでも何度も警察に撮影を止められたり、撮影済みテープを没収されたりしたんですが。しかも最初に主な被写体としていた少女はおびえてしまったので、別の主人公を探さなければならなかったんです。1年半も撮影を進めてきていたのに! 実は、最終的に取材をさせてくれた工場主のラム氏には、『自由経済の起業家第一世代の映画を作りたい』とお願いして撮影したんです。しかも現在リサーチをしていて、他にも6つの工場と交渉中です、ってね(笑)。その結果、全面的に協力してくれました。24時間、どこへでも出入りしていいと。ですから映っているのは、ありのままの工場の様子。登場する少女たちも映画の本来の意図は知りません。僕のことは工場主の友達だと思ってましたね。だから工場では、映画の本当の意図は誰も知らなかったんですよ」
本作はアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭では審査員賞を受賞。また、アメリカのPBS(非営利公共放送)ではインディペンデント・レンズというシリーズの一作として07年度の観客賞を受賞した。その結果、消費者運動やメーカー側の姿勢などに変化はあったのだろうか?
「GAPとリーバイスがすべてを改善しました、といいたいところですが(笑)、問題はそれほど簡単ではありません。ただ、かなりの討論は巻き起こりました。西欧諸国では皆、中国製の洋服を着て、皆、ジーンズが好きですから、誰もが興味を持っているトピックスなんです。実は北京オリンピックの2日前には、中国で秘密の上映会も行われたんです。もちろん中国ではこの作品は上映禁止なので、見つからないよう、こっそりと。企画してくれたのはアムネスティ主催の国際人権映画祭のスタッフ。本当は僕も行きたかったんですが、中国当局の許可なしでこの映画を撮ってしまったのでビザがおりないんです(笑)。ですから残念ながら出席できませんでした」
「GAPとリーバイスがすべてを改善しました、といいたいところですが(笑)、問題はそれほど簡単ではありません。ただ、かなりの討論は巻き起こりました。西欧諸国では皆、中国製の洋服を着て、皆、ジーンズが好きですから、誰もが興味を持っているトピックスなんです。実は北京オリンピックの2日前には、中国で秘密の上映会も行われたんです。もちろん中国ではこの作品は上映禁止なので、見つからないよう、こっそりと。企画してくれたのはアムネスティ主催の国際人権映画祭のスタッフ。本当は僕も行きたかったんですが、中国当局の許可なしでこの映画を撮ってしまったのでビザがおりないんです(笑)。ですから残念ながら出席できませんでした」
本当の悪者は、僕ら消費者側なんです
とはいえ、もしも政府の許可をとっていたら、完全にプロパガンダ映画になってしまうから、と笑う監督。映画の最後に、「出演者の全員が処罰されなかった」とひとこと添えられていたのも、ほっとするような、ぞっとするような話だ。
「ただ、香港の映画祭で上映されたときに中国のプレスが映画を見て記事を書いてしまったようで、その後、工場主のラム氏のところにだけは政府から誰かが来たそうです。『どうして外国メディアに協力したんだ』と。まあ、彼は元・警察所長なのでなんとかなったと思うんですが。ただ、この映画のなかで僕が悪者として描いているのは、もちろんラム氏ではないし、中国ですらない。そういう発注をしている世界中の小売業者なんですよ。製造費を安く抑え、自分たちの利益だけを追求している。こういうシステムを作り上げて運営している彼らなんです。しかもそういった小売業者もまた、メディアの介入を避けようとしている。もちろんラム氏がそこから利益を得ているという面はありますが、彼がそのシステムを作り上げたわけではないですし、仮に彼が逮捕されたとしても、すぐ翌日にはまた別の工場主が同じことを繰り返すわけです。ですから、こういう状況を本当に変えられるのは、我々、消費者側なんですよ」
「ただ、香港の映画祭で上映されたときに中国のプレスが映画を見て記事を書いてしまったようで、その後、工場主のラム氏のところにだけは政府から誰かが来たそうです。『どうして外国メディアに協力したんだ』と。まあ、彼は元・警察所長なのでなんとかなったと思うんですが。ただ、この映画のなかで僕が悪者として描いているのは、もちろんラム氏ではないし、中国ですらない。そういう発注をしている世界中の小売業者なんですよ。製造費を安く抑え、自分たちの利益だけを追求している。こういうシステムを作り上げて運営している彼らなんです。しかもそういった小売業者もまた、メディアの介入を避けようとしている。もちろんラム氏がそこから利益を得ているという面はありますが、彼がそのシステムを作り上げたわけではないですし、仮に彼が逮捕されたとしても、すぐ翌日にはまた別の工場主が同じことを繰り返すわけです。ですから、こういう状況を本当に変えられるのは、我々、消費者側なんですよ」
映画は感情のメディア。だから僕は映画的にドキュメンタリーを撮りたい

(c)2005 Teddy Bear Film – all rights reserved
作品の構成として、ドキュメンタリーでありながら、いわゆるフィクションとしての普通の映画に近い見せ方だったのが印象的だった。中国の労働の実態を追いながら、ジャスミンをはじめとする少女たちを活き活きと見せる。その演出は意図的なものだったのだろうか。
「そうです。僕はこういうスタイルが好きなんですよ。実話だけれど、ストーリーがある。田舎から出てきたばかりの少女が、いろいろな危機を乗り越えて、成長していく。単に中国の工場で安い賃金で働いている人たちがいるっていわれても“ふーん”で終わってしまうけれど、それが自分の知ってる人や友達だったら、こんなことはおかしい! と強く思いませんか? 映画は感情のメディアですから、感情に訴える力がなければいけない。僕はそう思うんです」
映画の終盤、工場で働く少女たちがXLサイズのジーンズを広げて「こんなに大きなジーンズを履くのってどんな人?」と楽しそうにおしゃべりをしているシーンがある。彼女たちを取り巻く状況は確かにハードだが、だからといって毎日毎日、暗い顔で黙々と働いているだけの存在ではない。そんな、あたりまえだけれど、ドキュメンタリーでは抜け落ちがちな目線こそが、この映画の白眉なのだ。
「そうです。僕はこういうスタイルが好きなんですよ。実話だけれど、ストーリーがある。田舎から出てきたばかりの少女が、いろいろな危機を乗り越えて、成長していく。単に中国の工場で安い賃金で働いている人たちがいるっていわれても“ふーん”で終わってしまうけれど、それが自分の知ってる人や友達だったら、こんなことはおかしい! と強く思いませんか? 映画は感情のメディアですから、感情に訴える力がなければいけない。僕はそう思うんです」
映画の終盤、工場で働く少女たちがXLサイズのジーンズを広げて「こんなに大きなジーンズを履くのってどんな人?」と楽しそうにおしゃべりをしているシーンがある。彼女たちを取り巻く状況は確かにハードだが、だからといって毎日毎日、暗い顔で黙々と働いているだけの存在ではない。そんな、あたりまえだけれど、ドキュメンタリーでは抜け落ちがちな目線こそが、この映画の白眉なのだ。
ミカ・X・ペレド
1952年スイス生まれのイスラエル育ち。輸入業、教師、ガードマン、ジャーナリスト、原子炉スタッフ、選挙事務所マネージャー、旅行ガイドなどさまざまな職を転々とした後、「運命には逆らえずに(笑)」(監督談)ドキュメンタリー映画監督に。初監督映画『Will My Mother Go Back To Berlin?』(93)はベルリン国際映画祭で上映され、またハワイ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。続く『Inside God‘s Bunker』 (94)はヨーロッパ15カ国、アメリカ、オーストラリア、日本でもNHKで放映された。その後、グローバリゼーションをテーマにしたとトリロジーを製作。第1作目の『STORE WARS:When Wal-Mart Comes to Town』(01)はサンフランシスコ国際映画祭ゴールデンゲート賞を受賞。第2作目にあたる本作は、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画際でアムネスティ・ヒューマン・ライツ・アワードを受賞したのち、アメリカのPBS(非営利公共放送)で放送され、2007年度観客賞を受賞した。現在第3作目となる『Seeds』 の製作中。
『女工哀歌(じょこうエレジー)』
●原題:CHINA BLUE/2005年/アメリカ/カラー/ビスタ/2008年9月27日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムにて日本公開
●配給:エスパース・サロウ
→公式HPhttp://www.espace-sarou.co.jp/jokou/
text by Shoko Iwane
1952年スイス生まれのイスラエル育ち。輸入業、教師、ガードマン、ジャーナリスト、原子炉スタッフ、選挙事務所マネージャー、旅行ガイドなどさまざまな職を転々とした後、「運命には逆らえずに(笑)」(監督談)ドキュメンタリー映画監督に。初監督映画『Will My Mother Go Back To Berlin?』(93)はベルリン国際映画祭で上映され、またハワイ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。続く『Inside God‘s Bunker』 (94)はヨーロッパ15カ国、アメリカ、オーストラリア、日本でもNHKで放映された。その後、グローバリゼーションをテーマにしたとトリロジーを製作。第1作目の『STORE WARS:When Wal-Mart Comes to Town』(01)はサンフランシスコ国際映画祭ゴールデンゲート賞を受賞。第2作目にあたる本作は、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画際でアムネスティ・ヒューマン・ライツ・アワードを受賞したのち、アメリカのPBS(非営利公共放送)で放送され、2007年度観客賞を受賞した。現在第3作目となる『Seeds』 の製作中。
『女工哀歌(じょこうエレジー)』
●原題:CHINA BLUE/2005年/アメリカ/カラー/ビスタ/2008年9月27日(土)から渋谷・シアター・イメージフォーラムにて日本公開
●配給:エスパース・サロウ
→公式HPhttp://www.espace-sarou.co.jp/jokou/
text by Shoko Iwane







































