監督は、日本でも熱狂的なファンを持つ、台湾トレンディ・ドラマの演出家
オレはもう軽薄でヤワなアイドル・ドラマなんか撮ってらんないぜ。これからは社会派モキュメンタリー映画を撮る!——と、『ビバ!監督人生!!』の冒頭、周囲の者に高らかに宣言するトレンディ・ドラマの演出家ドウズ。これを見て、本国台湾の観客たちは驚いただろうし、おそらく日本でも、殊に台湾ドラマファンなどにはガンとくるはず。なぜなら、ドウズ演じるこの男こそ、日本でも熱狂的なファンに支えられる台湾トレンディ・ドラマ「花ざかりの君たちへ~花様少年少女~」(06)、「求婚事務所」(04)、「部屋においでよ~Come to My Place~」(02)などの人気演出家兼俳優、二ウ・チェンザーその人だから。しかも本作は、その二ウ自身が監督・脚本を務めたもの。つまり、あきらかに自身を投影した主人公を、業界批判とも取れる立ち位置に、自らが立たせたということになるからだ。
最もバカ野郎な自分を描いた“私映画”
「台湾で公開されたとき、まず“これはあなたの私映画ですね”と聞かれまくりました。でも僕がここで言えるのは、この映画に込めた感情は100%自分のものだけど、ストーリー展開に関しては、自分の体験、見聞きしたもの、フィクションが混ざり合っているってこと。具体的な境界線? それは、たとえ殺されても答えません! というより、実は自分でももう区別がつかないんですよね(笑)」
と、いちおうはぐらかされた格好となったのだが、本作制作の経緯の説明を求めると——。
「僕は00年からテレビドラマの演出をしてきたんですが、ちょうど05年の秋頃に、映画を撮ろうと思い立ったんです。当時僕は、自分は頭がいいし理想も高い、テレビドラマで富や名声は得られたけどもうやめて、これから取り組む映画は今の台湾社会の混乱の打開策になるような風刺ドキュメンタリーにして——と燃えていた。ところが、準備に入ってまもなく、5年間つきあってきた最愛の人と別れることになって。もうどん底でね、半年間、仕事も何もできなかったんですよ」
……聞けば聞くほど、映画の内容と一緒である。
「結局、長い間、欲張ってばかりいたんですよね。成功、名声、お金、綺麗な彼女と、あれもこれも欲しいと追っかけて、酒に溺れセックスにふけり高級外車に乗ってクラクション鳴らして……そうこうするうちに、自分がどんな人間かもわからなくなって腐敗臭をまき散らし、遂に彼女も我慢できなくなって出ていって——。それで初めて自分と深く向き合うようになったわけです」
と、いちおうはぐらかされた格好となったのだが、本作制作の経緯の説明を求めると——。
「僕は00年からテレビドラマの演出をしてきたんですが、ちょうど05年の秋頃に、映画を撮ろうと思い立ったんです。当時僕は、自分は頭がいいし理想も高い、テレビドラマで富や名声は得られたけどもうやめて、これから取り組む映画は今の台湾社会の混乱の打開策になるような風刺ドキュメンタリーにして——と燃えていた。ところが、準備に入ってまもなく、5年間つきあってきた最愛の人と別れることになって。もうどん底でね、半年間、仕事も何もできなかったんですよ」
……聞けば聞くほど、映画の内容と一緒である。
「結局、長い間、欲張ってばかりいたんですよね。成功、名声、お金、綺麗な彼女と、あれもこれも欲しいと追っかけて、酒に溺れセックスにふけり高級外車に乗ってクラクション鳴らして……そうこうするうちに、自分がどんな人間かもわからなくなって腐敗臭をまき散らし、遂に彼女も我慢できなくなって出ていって——。それで初めて自分と深く向き合うようになったわけです」
自分の不幸は、環境のせいではない!
ああ、なんという赤裸々な……これも引き続き、映画で描かれたことと同じである! つまり本作は、“二ウ監督がモキュメンタリーを撮ろうと奔走する中で外に向けて指していた指を、実は最もバカ野郎であった自分自分に向け直すまでの過程”をモキュメンタリーとして撮ったもの、という二重構造的な映画となっているのである。
「だから、ドラマ業界、映画業界を批判したものじゃないんですよ。そういう環境の中での自分自身を批判した映画ですから。人はとかく自分の不幸を、景気のせい、政治のせい、メディアのせい、と環境のせいにしがちだし、自分も長い間そうだったけれど、それは自分が直面している問題からの逃避でしかない。周囲の環境が最悪に見えるのは、結局自分の心がそう見せているのだ、ということをこの映画で描きたかったんです」
とはいえ、エラ・チェン、ジョセフ・チャンなどの台湾スターが実名で登場するほか、多くの台湾芸能人の名も飛び交い、あるいは某国会議員のカツラ疑惑をおちょくるなどのキワドいネタも随所に挿入し——と、台湾の観客もしくは台湾事情に詳しい人にはかなり過激に刺激的な内容となっている。映画製作の裏側を描いたものとしても実に生々しく、例えば黒社会とのつながりなど、少々ヒヤヒヤものの描写もある。
「確かに、公開前にこれを見て、“こんなに映画人を悪く描いて大丈夫かな?”と心配してくれた映画プロデューサーもいました。でも結局、バカ野郎なのはドウズ監督=二ウ・チェンザーですからね。上映されてからは、むしろ同業の映画監督たちこそが最も共感してくれた。ここで描かれていることは、たとえ自分が経験してはいなくても、映画人として誰しも見聞きしたことだろうし、経験する可能性がないとはいえないものだから」
「だから、ドラマ業界、映画業界を批判したものじゃないんですよ。そういう環境の中での自分自身を批判した映画ですから。人はとかく自分の不幸を、景気のせい、政治のせい、メディアのせい、と環境のせいにしがちだし、自分も長い間そうだったけれど、それは自分が直面している問題からの逃避でしかない。周囲の環境が最悪に見えるのは、結局自分の心がそう見せているのだ、ということをこの映画で描きたかったんです」
とはいえ、エラ・チェン、ジョセフ・チャンなどの台湾スターが実名で登場するほか、多くの台湾芸能人の名も飛び交い、あるいは某国会議員のカツラ疑惑をおちょくるなどのキワドいネタも随所に挿入し——と、台湾の観客もしくは台湾事情に詳しい人にはかなり過激に刺激的な内容となっている。映画製作の裏側を描いたものとしても実に生々しく、例えば黒社会とのつながりなど、少々ヒヤヒヤものの描写もある。
「確かに、公開前にこれを見て、“こんなに映画人を悪く描いて大丈夫かな?”と心配してくれた映画プロデューサーもいました。でも結局、バカ野郎なのはドウズ監督=二ウ・チェンザーですからね。上映されてからは、むしろ同業の映画監督たちこそが最も共感してくれた。ここで描かれていることは、たとえ自分が経験してはいなくても、映画人として誰しも見聞きしたことだろうし、経験する可能性がないとはいえないものだから」
人生において困難は何度でも巡ってくる
こうした同業者たちの共感と同じく観客も、見ているうちに(自分も同じようなバカ野郎かも……)と気づくような、人間の普遍的なしょうもなさを描いたともいえるこの作品。いったんは自分のバカさ加減に気づき改心したが、でも……という結び方もまた、なんとも苦く後を引く。
「ドウズは心を入れかえる努力をするけれど、でも僕はハッピーエンディングにしたくはなかった。自分を変えたところですぐに世の中がよくなるものでもないですからね。結局人生において困難は何度でも巡ってくるし、僕たちはその都度何度でも戦い、挑戦していかなければならないのだ——と。これが、この作品で僕がいちばん言いたかったことです」
そんなかなりクセのある、少なくともこれまで台湾にはなかったタイプの映画にも関わらず、配給・宣伝も担当した監督自身が奔走しての公開前の話題作り等も功を奏し、本作は台湾で大ヒット。
「台湾映画界は長いこと停滞状態でしたが、この作品のヒットが呼び水になって、続く『海角7号』も大ヒットした他、投資、映画批評の面でも、今、台湾映画界はかなり活気づいているんですよ」
もちろん、監督が言うように現在の活況は本作が起爆剤となってのものだが、ここ数年で個性的な若い才能が育ってきたことが下支えとなったのも確か。そんな復興の兆しを確認できるのが、本作を含む06~08年のヒット作8本を集めた「台湾シネマ・コレクション2008」。現在開催中のこの上映イベントで、台湾映画の新たな潮流を感じつつ、すでにロッテルダム国際映画祭(NETPAC賞を受賞)ほか内外の映画祭もわかせた、ドウズ=二ウ・チェンザーの憎み切れないバカ野郎ぶりを覗いてみてほしい。
「ドウズは心を入れかえる努力をするけれど、でも僕はハッピーエンディングにしたくはなかった。自分を変えたところですぐに世の中がよくなるものでもないですからね。結局人生において困難は何度でも巡ってくるし、僕たちはその都度何度でも戦い、挑戦していかなければならないのだ——と。これが、この作品で僕がいちばん言いたかったことです」
そんなかなりクセのある、少なくともこれまで台湾にはなかったタイプの映画にも関わらず、配給・宣伝も担当した監督自身が奔走しての公開前の話題作り等も功を奏し、本作は台湾で大ヒット。
「台湾映画界は長いこと停滞状態でしたが、この作品のヒットが呼び水になって、続く『海角7号』も大ヒットした他、投資、映画批評の面でも、今、台湾映画界はかなり活気づいているんですよ」
もちろん、監督が言うように現在の活況は本作が起爆剤となってのものだが、ここ数年で個性的な若い才能が育ってきたことが下支えとなったのも確か。そんな復興の兆しを確認できるのが、本作を含む06~08年のヒット作8本を集めた「台湾シネマ・コレクション2008」。現在開催中のこの上映イベントで、台湾映画の新たな潮流を感じつつ、すでにロッテルダム国際映画祭(NETPAC賞を受賞)ほか内外の映画祭もわかせた、ドウズ=二ウ・チェンザーの憎み切れないバカ野郎ぶりを覗いてみてほしい。
ニウ・チェンザー
1966年6月22日生まれ。ホウ・シャオシェン監督の『風櫃の少年』で主演を務めるなど、子役時代から活躍する。同じくホウ監督の『ミレニアム・マンボ』では、本作と同じ、ドウズの役名で出演。2000年からテレビドラマの演出・出演をはじめ、F4主演の「部屋においでよ~Come to My Place~」やフェイルンハイ主演の「花ざかりの君たちへ~花様少年少女~」などを手がけ、恋愛ドラマの巨匠と呼ばれる。本作が初の長編映画監督作品になる。
『ビバ!監督人生!!』
● 原題:情非得己之生存之道/2007年/台湾/カラー/96分/台湾シネマコレクション2008にて公開中(~9月12日、9月20~26日19時~、9月13~14日11時15分~、9月17~19日16時25分~)
● 配給:エスピーオー
→『台湾シネマ・コレクション2008』公式HP http://www.cinemart.co.jp/taiwan2008/
text by Izumi Tsukada,photo(c)2008 Honto Production
1966年6月22日生まれ。ホウ・シャオシェン監督の『風櫃の少年』で主演を務めるなど、子役時代から活躍する。同じくホウ監督の『ミレニアム・マンボ』では、本作と同じ、ドウズの役名で出演。2000年からテレビドラマの演出・出演をはじめ、F4主演の「部屋においでよ~Come to My Place~」やフェイルンハイ主演の「花ざかりの君たちへ~花様少年少女~」などを手がけ、恋愛ドラマの巨匠と呼ばれる。本作が初の長編映画監督作品になる。
『ビバ!監督人生!!』
● 原題:情非得己之生存之道/2007年/台湾/カラー/96分/台湾シネマコレクション2008にて公開中(~9月12日、9月20~26日19時~、9月13~14日11時15分~、9月17~19日16時25分~)
● 配給:エスピーオー
→『台湾シネマ・コレクション2008』公式HP http://www.cinemart.co.jp/taiwan2008/
text by Izumi Tsukada,photo(c)2008 Honto Production








































