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『仕事場訪問 名作はここで生まれる』
新作『フィッシュストーリー』の撮影現場にて
中村義洋監督「僕にとって、撮影現場はライブ」

 
2008/08/22

仕事場訪問 名作はここで生まれる
さまざまなジャンルで活躍するトップ・クリエイターの仕事場を訪問し、そこから生み出された数々の名作のお話を聞く。

そのカットを最高の状態に持っていくための集大成の場

 『アヒルと鴨のコインロッカー』では新藤兼人賞金賞を受賞、その後も『チーム・バチスタの栄光』や『ジャージの二人』などの快作を作り出している、中村義洋監督。中村監督にとって、撮影現場とはどんな場所なのか?

 「僕にとって、撮影現場はライブですね。撮影の最小単位がカットだとすると、出たとこ勝負ではなく、そのカットをいちばん最高の状態に持っていくために、どんな準備を重ね、どんな環境を作り得ることができるか? その集大成が撮影現場だと思っています。脚本執筆などの準備段階から、俳優やスタッフにいつ、どんな話をするか、すべての過程を経た、集大成の場が撮影現場になる。それはまさにライブのような感じではないかと」

全てのシーンに手ごたえを感じている

(c)2008「フィッシュストーリー」製作委員会
(c)2008「フィッシュストーリー」製作委員会
 “ライブ”とは言い得て妙で、今回取材させていただいた最新作『フィッシュストーリー』は、1975年、売れないパンクバンド「逆鱗(げきりん)」が、最後のレコーディングで叫んだ音にならない声が、バンドが存在した1973年から長い時空を越え、2012年に世界を救う!? というストーリーだ。

 「俳優陣には今回、楽器演奏やアクションなど、これまでやったことのない特殊技術を習得してもらったのですが、その完成が予想をはるかに超えていた。彼らの成果に、こちらも応えなければならないと改めて思うほど、全てのシーンに手応えを感じています」(中村監督)

 「逆鱗」のリーダーでベースの繁樹を演じる伊藤淳史は、こう明かす。

 「初めて監督とお会いした時、スタッフ全員、30人くらいいる中で『どれくらい弾けるか、やってみて!』といきなり言われて焦りました(笑)。なんとかギターのコードだけ弾いてみたら、『それくらい弾けるなら大丈夫』と言われて。撮影の始まる2カ月前から、バンドのメンバー(高良健吾渋川清彦、大川内利充)と練習を始めることになったんです。もちろん先生にもついて教わりましたが、このメンバーだったから、実際に映画でも自分たちの演奏を使おうということになったんだと思います。とてもうれしい体験でした」(伊藤)

 1973年のキャバレーで「逆鱗」が演奏する撮影の後、ボーカル・五郎役の高良も「人前で歌うのはすごく恥ずかしかったが、後ろにメンバーがいてくれるし、2カ月間の練習の自信もあったから、思いのほか楽しめた」と笑顔を見せていた。

時代ごとの特徴を出すより、物語にすんなり入れることを大事にしたい

俳優のもとまで走って指示を出すのが中村流
俳優のもとまで走って指示を出すのが中村流
 複数の時代がシンクロしていく本作で、物語の発端となる伊藤らが登場する時代は「数えてみたら、1970年代は、115ページある台本の中で40ページくらいしかない(笑)。ひとつの時代だけで2時間くらいの映画が作れるところを、いろんな時代の中のひとつとなって凝縮されると考えると、もったいないと思う反面、贅沢な作品だなと思います」(伊藤)。中村監督も、今回の撮影でいちばん苦労したところを「ひとつの時代を、1週間から10日間で撮影を終えなければならなかったところですね」と言う。時空間の不思議や面白さを巧みに映像化する中村監督だが、今回は逆に意識していないのだとか。

 「たとえば70年代だからといって、小道具や手法で差別化するような、その時代の特徴を敢えて出すことは、なるべく避けています。そういうのは、物語からにじみ出てくればいい。いかにもそういう時代なんだなと観客の意識を向かせることよりも、物語にすんなり入れることを大事にしたいと思っています」(中村監督)

 「逆鱗」のメンバーが、居酒屋で最後の曲のタイトルを話し合うシーンの撮影中、中村監督はなかなかOKを出さなかった。思わず繁樹の話に聞き入りそうになるメンバーに「真剣になりすぎるな」と繰り返す。会話の間、お互いの視線の行方について、何度も指示を出していた。それはパンクの持つ普遍的な自由さを、解散直前となった時点でもなお保ちたいという思惑があったのかもしれない。中村監督の現場を伊藤はこう語る。

 「こんなに意思がぴったり合う監督は初めてです。もちろん監督がそう思わせてくれてるんですけど。こないだも歌詞を殴り書きするシーンで、この言葉はこの辺りに、という書き方の意見が監督とぴったり同じで、びっくりしました。現場でも自由にやらせてもらっています。一度芝居をしてみて、監督が違うと感じた部分は意見交換しながら修正していくスタイルですが、監督の指摘はなるほどなと納得させてくれることばかりです」(伊藤)

伊坂さんが意図的に薦めてくれたのだとしたら、すごくうれしい

パンクと言えば「自由、かな(笑)」(中村監督)
パンクと言えば「自由、かな(笑)」(中村監督)
 本作は中村監督にとって、『アヒル〜』に続く伊坂幸太郎小説の映画化となる。「フィッシュストーリー」を映画化することになった経緯についてはこう明かす。

 「『アヒル〜』の完成前から他の伊坂作品もぜひ映画化したいと思ってはいました。ただ伊坂さんに『アヒル〜』をご覧いただく前にそんな話をするのは格好つかない気がしていて。そこで『アヒル〜』の完成を待ってから、他の作品の映画化権を調べたら、すべて埋まってしまっていたんです(笑)。その後、しばらくして、伊坂さんから『こんな作品がありますよ』と言ってもらったのが『フィッシュストーリー』でした。作品のテーマが、『アヒル~』とはまったく違うものだったので、伊坂さんがあえてこれを薦めてくれたのだとしたら、ものすごくうれしかった。意図的にこの作品を僕に撮ってほしいと言っていただいているのだと受け止めました」

 伊坂は『アヒル~』に大賛辞を送った。これは実に稀なことだ。最後に、この作品のテーマについて語っていただいた。

 「原作と同じく、『今、私たちが生きている意味は、時空を超えて確かにあるのだ』ということです。誰しも、ただ生きている、そのことに意味がないなんてことは絶対にないのです」

中村義洋
1970年茨城県出身。93年『五月雨厨房』でPFF準グランプリを獲得。成城大学卒業後、伊丹十三崔洋一平山秀幸らの助監督を務める。99年に『ローカルニュース』で劇場映画監督デビュー。一方で、脚本家としても『仄暗い水の底から』(共同脚本)、『刑務所の中』などの話題作を数多く手がける。『アヒルと鴨のコインロッカー』で、2007年度新藤兼人賞金賞を受賞。
『フィッシュストーリー』
●2008年/日本/2009年春、渋谷シネクイントほか日本公開予定 ●配給:ショウゲート


text by Kana Ishimura(Variety Japan)

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